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Diary

With My Buddy #001

With My Buddy  #001

With My Buddy

~ A Surfer & The Dog ~

 

第一話

ジョン & 虎太郎(こたろう)

 

 

***

 

いま巷では、ライフスタイルという言葉が最上級のキーワードとして世間を賑わせている。一方でサーファーは、どこにいても、また何をするにも、この“スタイル”をもっとも重要視してきた人種。もともと、自分にとって何が大切かを良く知っている。

私たちの人生においてもっとも大切なことのひとつ、それは誰かと愛を育むことだろう(もちろん、生涯波に乗り続けることも)。パートナー、子供、隣人、家族……、そのなかには犬や猫たちの存在も挙げられる。彼らと言葉を交わすことはできないが、その仕草や表情、声のトーンでお互いに愛を感じ取ることができる。感じ合える。

サーファーにとってのスタイルという言葉をもっと広い意味で捉えるなら、人生をかけて自分の愛を捧げる家族や犬たちとの関わりは、スタイルあるサーファーであるためのひとつの条件に値する。

 

***

 

前置きは長くなったが、Blue.でそんなサーファーと犬たちとの愛すべき関係を描きたいと思い立ったとき、真っ先に浮かんだのが、横須賀にある『かねよ食堂』のオーナーであるジョンくんと、ロットワイラーの虎太郎(通称こっちゃん)の姿だった。

理由はとても自然な流れで、これまでのジョンくんとの付き合いのなかで、私たちがいつ彼らのもとを訪れても、ふたりが同じフレームのなかに常に収まっているのを日常的に見ていたから。

いつも一緒……きっと、そういう印象がとても強かったからに違いない。

 

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日本全国にファンがいる、新たなビーチカルチャーが芽吹く場所『かねよ食堂』。ここはもともと、いまは亡きジョンくんの親父さんの作業場。そして、お母さんが切り盛りする『海の家かねよ』だった。

この漁師小屋を単なる飲食店以上の“場”にまで育て上げてきた彼の敏腕と、努力や苦労、それに仲間たちとの信頼は計り知れない。そんな人生における変化のさなか、相棒こっちゃんは彼のもとにやって来た。

「かねよ食堂もある程度カタチになってきて、少し時間的余裕も生まれ始めた頃でした。昔、親父も雑種の犬を飼っていて。いつもひょこひょこ、どこでも父のあとをくっ付いていってたのを覚えています。漁から帰ってくるのをずーっとそこの砂浜で待っていたり。本当に、親父によくなついていた犬でした。そういうのを近くで見てた影響もあるのかな? 犬と暮らしたいと思い始めたのは」

そうして、いまから8年前のある日、横浜の施設で保護され、行く宛てのなかったこっちゃんを、彼はその場で引き取った。

「以前ハワイに通っていた頃、行く度によく泊まらせてくれていた友人がいて。そこには大きな犬がいて、とても賢そうで可愛かったのを覚えています。ロットワイラーっていう犬なんですが、虎太郎はそれと同じ犬種で。即決でしたね。『すぐ引き取りたいです』って伝えて」

お互いにとってきっと良き出会いだったに違いない。虎太郎が2歳のときだった。

 

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漁師であり、サーファー、そして人気ビーチレストランのオーナーでもあるジョンくんの朝は早い。

食堂の目の前に広がる東京湾・横須賀沖が、漁師である彼の仕事場。海の状況次第で、季節にかかわらず、夜明け前には海へと漕ぎ出す。サーファーのそれと同じく、その時々で風の向きや潮の満ち引きを観察しながら、前の日の夕方、獲物がたくさんいそうな場所に仕掛けた網を引き上げに向かうのだ。

知っての通り、魚は鮮度が勝負。特に暑い季節は、照りつける陽差しで魚が傷まないよう、太陽が昇り切る前に仕掛けた網をすべて引き上げなければならず、時間との勝負になる。

「自分の船はそんなに大きなものではないから、引き上げた網や獲れた魚で船上はあまり足場もないし、何より漁のときは真剣勝負。なんで、こっちゃんは陸で留守番です」

他にもタコ壺を仕掛けたり、サザエやアワビを獲りに潜ったり。春には、ワカメなどの海藻類やアサリも旬を迎える。そうして水揚げされた獲物の多くはかねよ食堂のキッチンにそのまま運ばれ、抜群の鮮度で提供されるのだ。その料理たちに人気が出ない訳がない。

 

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「でも、漁に出るとき以外はずっと一緒。買い出しのときも、店にいるときも。寝るときもベッドの下にいるし。トイレでさえドアの前までついてきちゃうのはどうかと思うけど(笑)」

もちろん、サーフィンに行くときも必ず一緒。車のなかでリードに繋いでおきながら、夏場はウインドウやバックドアを開け広げたまま、冬場は暖房をかけたままで。

「一度、ビーチまで連れて行き、リードを流木に結んで海に入ったら、どこかに置いていかれちゃったのと勘違いしたらしく遠吠えし始めちゃって。結構寂しがるんです。だから、いまではトリップも、長くても一週間ぐらい。こっちゃんを預けるのに、実の姉のところが唯一気を許してくれるところで……」

このロットワイラーという犬種は日本ではあまりメジャーではないが、アメリカやヨーロッパではガードドッグ(護衛や警備のための犬)としてはもとより、コンパニオンとして家族の一員に迎え入れられるケースも多いようで、人間との関わりも深い。非常に頭が良く、いまでも牧牛犬や警察・軍用犬として名を馳せている。力があって、優しくて、忠誠心も強い。

「たまに人間同士の口ゲンカとかになると、『やめろよっ!』って感じで仲裁に入ってきたり。人間の会話をよく聞いてるんです。これといったしつけはしてこなかったけれど、24時間ほぼ一緒にいるから、しっかり意思疎通できますよ」

何とも、言うことなしの相棒だ。

 

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暇な時期なら、漁や食堂がある程度落ち着いてからは、こっちゃんとの時間。ビーチの目の前で育ったにもかかわらず、水が嫌いなこっちゃんは、ザブザブ泳ぐことはしない。でも、SUPクルーズとボール遊びが大がつくほどの好物だ。

「少しクルーズに出ようと水面にSUPを浮かべると、ササッと自分から乗ってきて、『よし、行くぞ!』って態度をとるんですよね。濡れるのが嫌いなクセに、SUPで海に浮かぶのは大好きなんです。それと、テニスボール。投げればどこまでも追いかけていきますね。でも、いまは足がこんなだから……」

 

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今年に入り、こっちゃんの右前足に異常が見つかった。

診断は、骨のがんである骨肉腫。北海道の病院まで訪れ治療した甲斐あって、全身への転移も免れ、完治した。しかし、治療の影響で脆くなってしまった骨が、もはやこっちゃん自身の身体の重さを支えきれなくなっていた。骨折した状態にある右前足をかばうため、いまはビッコをひきながら歩き、走ることはできない。

「健康な骨がどこまで残っているか見極めながら、義足をつけてまた4本足で立てるか、3本足で生きていくかを判断しなければなりません。いずれにしても切断は避けられない事実。でも、全身にがんが転移していなくて本当に良かった……。ここのビーチは他の漂流物と一緒にたくさんのテニスボールが流れ着いてくるから、こっちゃん用にストックしてあるんです」

手術がうまくいき、たとえ義足でも、3本足であっても、また以前と変わらずボールを果敢に追いかけるこっちゃんの姿を早くフレームに収めたい。そう切に願って止まない。

「虎太郎という名は、もともと施設にいたときからのもので、きっと生まれたときに当時の飼い主が付けた名前だと思います。人間と一緒で、犬もそれぞれの運命を辿るのであれば、その名前は変える必要がないと思って、引き取った当初からずっと虎太郎と呼んでいます」

一度は施設に預けられてしまったけれど、ジョンくんと出会い、こっちゃんはまた愛にあふれた犬生を歩んでいる。

心のなかで「よかったね」などと思いながらこっちゃんの頭を撫でていると、いまにも「そうだよね」なんて話しかけてきそうな深い目をしていたことは、決して気のせいではないだろう。その場にいたみんなは、その穏やかな表情を知っている。

 

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photo◎Kuni Tanakanami
text◎Isao Negishi(KUJIKA)

<着用製品>

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WOLFGANG MAN & BEAST

http://wolfgang.jp/

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ウルフギャング マン&ビーストは、自然豊かなアメリカ西部ユタ州で産声をあげた、
アドベンチャーなライフスタイルを愛する人々と、その傍らにいつもいるフサフサの毛で覆われている
ベストフレンド=愛犬、その両者にフィットするライフスタイルブランド。

アメリカンメイドのハイクオリティレザーや、グラフィカルなテキスタイルを採用した首輪やリード、
くわえて、飼い主のためのクールなアパレルアイテムやアクセサリーを展開している。

また、動物保護の活動を行うNPOとともに、積極的な啓蒙活動を展開している。

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