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伊東李安琉のシグネチャームービー「FREE BIRD」とは？主演＆製作陣によるスペシャル対談

プロサーファー、伊東李安琉。2023年、2024年と2年連続で「VANS PIPE MASTERS」への出場を果たし、今季はアジア代表選手としてWSL CSを転戦。「NIAS PRO 2024」のラウンド32にてパーフェクト10をスコアしたチューブライディングは多くのサーファーの記憶に刻まれていることだろう。そんな名実ともに日本を代表するトップサーファーとなった李安琉さんのシグネチャームービー「FREE BIRD」が今夏完成した。

本作は少年時代から李安琉さんの成長を支え、共に世界各地の波を追いかけてきたフォトグラファーの木本直哉さんをプロデューサーに、そして数々の名作を世に送り出してきたパルオこと鈴木晴雄さんをディレクターに迎えた。

ウエスタン・オーストラリアに始まり、ハワイ・ノースショア、メキシコ、インドネシア、タヒチ、そして李安琉さんの地元・宮崎に至るまで、約5年の歳月をかけて撮影。また、李安琉さんの両親をはじめ、脇田貴之さんや渡辺寛さんなどの貴重なインタビューも収録され、サーファー伊東李安琉の“いま”が50分に凝縮されている。

去る7月13日、宮崎県で完成披露上映会が開催された。李安琉さんの家族や友人、地元のレジェンドなど延べ270人が詰めかけ、大盛況のうちに幕を閉じた。10月よりスタートするFREE BIRD上映ツアーに先駆けて、李安琉さん、木本さん、パルオさんによる対談を実施。本作に対するこだわりや撮影秘話、李安琉さんの未来のビジョンなどについて熱く語り合っていただいた。

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「木本さんと仲間と共に世界の波に挑んできた。

FREE BIRDにはいまの俺のすべてが詰まっている」

――伊東李安琉

Blue.　FREE BIRDの完成、おめでとうございます。李安琉さんは、宮崎の完成披露上映会で初めて作品を鑑賞されたそうですね。

李安琉　そうなんです。ありがたいことにFREE BIRDを鑑賞するために、多くの方々に来場いただきました。俺も初めて鑑賞だったので正直ドキドキでしたね。

Blue. 　鑑賞した感想はいかがでしたか？

李安琉　いまの俺のすべてが詰まっていました。木本さんを筆頭に、この作品に協力してくれたシネマトグラファーの映像、そしてパルオさんのすばらしい編集のおかげで、うまく表現できないけれど、とにかくやばかったですね。

Blue. 　完成披露上映会は、当初１回のみの上映でした。しかし劇場のキャパシティに収まりきらない数の観客が集まり、急遽２回目の上映が決定しました。第一回、第二回ともにオープニングシーンで大波にチャージする李安琉さんが映し出されると、観客から大きな歓声が沸き起こりましたね。

李安琉　最初は恥ずかしかったけれど、みんなが盛り上がってくれて素直にうれしかったです。

Blue. 　そもそもFREE BIRDはどのような経緯で製作されたのですか？

木本　2023年、クイックシルバーから「伊東李安琉を主演にしたサーフフィルムを製作したい」と相談を受けたんです。李安琉が当時13歳のころにハワイ・ノースショアで出会い、2019年に初めて彼と旅をしました。この数年間、世界のサーフスポットを飛びまわって李安琉のサーフィンを撮りだめてきて、もちろん彼のためなら力を貸したかったし、心を熱くする作品にしたかった。それならば、監督を任せられるのはパルオくんしかいない。「波巡礼シリーズ」などで一緒に仕事をしてきて、パルオくんは僕が表現したいことを理解してくれて、かたちにしてくれるんです。

パルオ 　木本さんから「李安琉のシグネチャームービーの編集してくれるか？」って誘ってもらって、二つ返事で引き受けました。木本さんから送られてきた李安琉くんの映像を見て、もうすべてのライディングがすごかった。作中でどのように緩急をつけたらいいのか、すごく悩みましたね。

Blue.　息を飲むほどのライディングの数々でしたが、李安琉さんがとくに印象に残っているシーンを教えてください。

李安琉　メキシコのプエルト・エスコンディードですね。初めてのメキシコで、海も街も何もかもが未知でした。サーフスポットに着くと、これまで見たこともないビーチブレイクが炸裂していて、あのビックバレルは今でも忘れられません。

Blue. 　では、木本さんはどのシーンがお気に入りですか？

木本　2022年のタヒチ・チョープーです。2週間の滞在期間中、ずっと波に恵まれました。でもあと１週間滞在を延長すれば、さらに大きなスウェルが入る予報だったんです。お金を使って撮影に出る＝最高の成果を必ず持って帰らなければいけない。だから波を当てられるまで帰国できなかった。一緒に旅をした李安琉、健新と大輝の松永兄弟、安室弦に「きっとエピックデイになるはずだから、タヒチに残るべき」と言ったんです。彼らの熱い思いもあって、１週間延ばすことにして本当にスウェルが届きました。帰国する数日前、朝ポイントに行くと不思議なことにピークに誰もサーファーがいなかったんですよ。「波がもったいないから、早く行け！」って彼らを海に送り出すと、みんなビックバレルをメイクした。日本人サーファーのレベルを世界に示すことができし、本当にミラクルな時間でした。

Blue. 　彼らのSNSや「波伝説」で、チョープーでのセッションの様子がアップされ、大きな話題を呼びましたね。

パルオ 　先ほど言ったように、この作品で流れるすべてのライディングが凄まじい。だけれどもチョープーの映像は特別。木本さんと相談してラストシーンに選びました。

Blue. 　チョープーやパイプライン、宮崎など、李安琉さんはビックウェーブにチャージしていますが、恐怖心を抱くことはないんですか？

李安琉　正直怖いです。でも普段一緒にサーフィンしている（松永）健新や（松永）大輝は、俺よりもっとやばい波に挑んでいるから、なんとなくだけれど『このサイズならメイクできる』って思えるんです。俺の周りにいるかっこいいサーファーから刺激を受けながら、大波にチャレンジする勇気をもらっています。

Blue.　仲間と切磋琢磨することで、李安琉さんのサーフスキルとメンタルは磨かれているのですね。以前Blue.のインタビューで、「コンテストとビックウェーブ、どちらかを選ぶのであればビックウェーブ」という回答がとても印象に残っています。CSに挑戦しているいまもその考えは変わらないですか？

李安琉　もちろんビックウェーブは好きですけど、試合も楽しんでいます。ビックスウェルを求めながら、転戦することが理想ですね。それがなかなかうまくいかないんですけどね。

Blue. 　それを踏まえて、目指すべき姿は？

李安琉　やっぱりCT入りは目標です。コンペティターとしても、フリーサーファーとしても超一流なジョン・ジョンのようなサーファーになれたらと思っています。

パルオ　いま名前の挙がったJJFのように、李安琉くんのサーフィンってビデオ映えする。リッピング、エアー、チューブ、どこを切り取っても絵になる。攻守走三拍子そろったサーファーなんですよね。

木本　パルオくんの言う通り、李安琉のサーフィンはバランスがいい。それが彼の長所だと思っています。将棋で例えるなら“飛車”。牛越や沼尻など、これまで撮影してきたサーファーは飛車のようなタイプでしたね。

Blue.　李安琉さんのさらなる飛躍とFREE BIRDの続編に期待しつつ、最後にこれから鑑賞する方へメッセージをお願いします！

パルオ 　李安琉くんのライディングはもちろん、彼の両親や渡辺寛くん、そして脇田さんへのインタビューもあり、全編見ごたえたっぷりです。ぜひ大画面で鑑賞していただきたいです。

木本　2020年に手掛けた「波巡礼 2 Surf Pilgrimage 2 To The Ends of The World」がキャリア最後の作品だと思っていたけど、クイックシルバーから依頼をいただいて今回FREE BIRDをリリースことができた。パルオくんがインタビューを入れてくれたおかげで作品のクオリティーがぐっと上がった。おそらくFREE BIRDが自分の作品の中でベストなんじゃないかな。自信をもっておもしろいと言えます。

李安琉　FREE BIRDを観てくれるだけでうれしいですけど、これからを担う若いサーファーに鑑賞してほしい。またサーフィンを知らないノンサーファーにも楽しんでいただけると思っています。