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素人シェイプで身の程を知る【ストーリー編】

素人シェイプで身の程を知る【ストーリー編】

こんにちは、Blue.編集の戸井田です。わたしごときのボードづくりを紹介するなど恐縮にもほどがありますが、かねてからサーフボードにまつわる数々の特集を作ってきたBlue.だけに「プロではない素人がシェイプすると、どう感じるのか?」そして「サーフボードはどういう工程でつくられているのか?」という部分は、きっと多くの方が気になるところかと。ひょんなことからビルダーの河合祥児さんに教えを請い、全工程を体験させていただく機会を得たので、わたしのダメさ加減も含めて、その工程を身をもってドキュメント。あらためて、サーフボードをつくるのは大変!

今回お世話になったのは『Smooth Body』のサーフボードビルダー、河合祥児さん(左)。シェイプからグラッシングまですべてをこなす匠の技と、アブストラクトに代表される色彩美は圧巻。経験豊かな鎌倉のレジェンド世代でありながら、フランクな人柄でBlue.まわりの仲間たちからも絶大な人気を誇る。河合先生、この度はお世話になります!

鎌倉の波を楽しんでいた夏のある日、ラインナップで『スムースボディ』のボードビルダー、河合祥児さんとお会いした。お久しぶりの挨拶と他愛のない会話に花を咲かせ、ファンな時間を満喫していたのだけれど、僕はラウンドの最後にお気に入りのフィッシュを破損してしまった。このキズの深さはプロに頼んだ方がいいか……と思っていると、河合さんが「俺が直してやるよ」と神のようなお言葉。僕は河合さんにボードを託し、後日、鎌倉にある河合さんのファクトリーへリペアが完了したボードをピックアップに伺った。

ファクトリーには河合さんのボードをはじめ、リペアで持ち込まれたボードもたくさん並んでいた。シェイプからグラッシング、リシェイプからリペアまで、河合さんはボードづくりにおけるあらゆるパートをこなすビルダーだ。シェイプに専念する以前は名店で腕を振るうシェフだった時代もあり、その斬新な発想と圧巻の技術はボードづくりでもふんだんに活かされ、これまで何度も驚かされてきた。

「昔はみんな、自分のボードは自分で作ったものなんだよ」

鎌倉育ちの河合さんは、半世紀近くにわたりボードデザインの発展を体験してきた大先輩。初めてボードを作ったのは十代前半だったそうだ。「見よう見まねでね」と河合さん。それがまた素敵だ。

「戸井田くんもそんな仕事してるなら自分で削った方がいいよ。最低限のことは教えてあげるから」

河合さんの言葉に胸が高鳴る。そう、ボードづくりを実体験していないことは、密かに僕のコンプレックスだったのだ。仕事柄、数多くのボードに触れて、撮って、書く機会に恵まれてきたからこそ、そのリアルを肌で感じる必要があるとずっと感じてきたから。

こうして僕は河合さんの教えを乞い、ボードづくりにチャレンジすることになったのだ。

「プレーナーは人間の手より素直だよ」と匠の技を披露してくれた河合さん。あらためてシェイパーにとってのプレーナーの存在の大きさを思い知った

ボードデザインについては迷いがなかった。シングルフィンのエッグだ。

考えうる最もシンプルなデザインで、基本中の基本を学びたかったから。レングスは7’前後なら、多少うまくいかなくても乗れないことはないだろう。短すぎるとディテールの表現がシビアになるし、長すぎても削る面積が大きすぎて、素人の手に余る。そんな希望をもとにブランクスを探し、河合さんがUSブランクスの7’4″ SPというフォームを用意してくれた。あまりロッカーがなく、ボリュームもワイズもたっぷり。そのうち娘とも共有できそうなやさしいボード、というイメージにもぴったりだ。

事前に自分で描いておいた妄想スケッチ。とにかく基本を知りたいのでミッドレングスのプレーンなエッグとした

さて、実際の作業については別途紹介している【工程編】をご覧いただきたく(最下部にリンク)。「サーフボードがどう作られているか」は多くの方が気になるところだと思うので、シェイプ、グラッシング、以後フィン立てからフィニッシュまで、の3パートに分けてご紹介している。

ちなみに、僕がボードを仕上げるために河合さんのファクトリーへ通ったのは、まる4日間。しかも河合さんが「できるだけ通う日数が少なく済むように」と、ラミネートの乾燥時間や作業効率を工夫してくれたうえでの4日間だ。

参考までに内訳は、シェイプ1日。グラッシング(ラミネート両面~ホットコート~フィンボックス挿入~サンディング~レジンコート)で計2日。バフ掛けなど最後仕上げで1日(最終日は数時間)。で、計4日間。

もちろん、プロである河合さんがやれば各工程の作業自体はぐっと短縮され、僕が1日を費やしたシェイプも河合さんなら「2時間かな」となる。とはいえ、ラミネートの乾燥時間などは変わらないわけで、ハンドシェイプからラミネートまでフルでひとりでこなすとなると「カスタムシェイプは月に10本を超えるとかなりキツい」そうだ。

実際、ご一緒させていただき切に思ったのが「人の手が作ったボードと、機械が作ったボードでは、価値も金額もちがって当然。そうあるべき」ってこと。それくらい工程が多く、相当な労力だから。

また、大きなブランドのファクトリーほどシェイパー、グラッサー、サンディングマンと役割が分業化されているのも納得。シェイパーとグラッサーでは求められる技術やセンスがそもそも異なるし、効率を考えたら担当を分けた方が生産数はぐっと増やせる。だからこそ、僕は原稿を書く際、河合さんのように全工程をこなす職人を、シェイパーではなく“ボードビルダー”と書いてきた。どちらが優れているという意図ではなく、シェイプもグラッシングもこなせるというのは純粋にすごいし大変なことで、そこはしっかり書き分けておきたかったからだ。

のこぎりでアウトラインをカットし、いざ、王道プレーナー
僕の一発目のプレーナーの削り跡(恥)。びびるほど力の込め方が不均一になり、凸凹になってあらわれる。まさにこころを映す鏡
センターの最大厚に対してノーズやテールはどのくらい薄くするべき? ボードにはディメンションには記されないパートがたくさんあるのだ。考えは尽きない

さて、僕の素人シェイプの話に戻ろう。これまで何度もシェイパーを取材してきたけれど、いざ実践となるとままならないことだらけ。特にプレーナーは苦労した……。河合さんは「自分の手より素直だよ」と言うけれど、僕の感想はひと言「じゃじゃ馬」。びびると暴れて、やばいと思って力を込めると削りすぎ。ある意味、素直であり、心の乱れがそのまま削り跡にあらわれた。

シェイプからラミネートまで、総じてどの工程も1本や2本程度の経験じゃとてもスムーズにいきそうにない。【工程編】の写真だけを見たらかなり順調そうに見えるだろうけれど、実際のところは河合さんに助けてもらいっぱなしだったことを、隠さず記しておきたい。河合さん、本当にありがとうございました。

まる一日かけてシェイプ終了。ボリュームをセンターよりややフロントに配したオーセンティックな7’3″のエッグ。波が厚い日の湘南やトリップできっと重宝するはず
河合さんをして「俺もいまだに難しいと思ってる」と言わしめるマスキング。クロスが重なるレール部分のカットラップをきれいに仕上げるには、マスキングはとても大切なポイントになる。で、実際やってみるとこれがまた地味に難しく、ゆっくりやりすぎても乱れるし、ちょっとでも乱れるとやり直したくなるし……

ちなみに河合さん評は「思ったより大胆に手を動かすね。でもちょっと雑かな」。自分ではけっこう器用貧乏だと思っていたので、意外だった。唯一誇れるとすれば、波がない日のランニングのおかげもあり、最後まで集中力と姿勢だけは保てたこと。作業は中腰も多く、立ちっぱなし。体力がなければ確実に腰にくると思う。それにしても「え、まだやる工程があるの?」の連続。それを実感できただけでもビルダーの努力を理解するには十分で、尊敬はさらに深まった。

「お、いい色じゃん」と河合さんも褒めてくれたブルーグレー。しかしですね、僕はこの色を「完成形の色」としてイメージしていて、先の工程で色がぐっと薄くなるなどまったく想定しておらず。実際に塗ってみると、明るく爽やかなライトブルーに(笑)
筒状にしたマスキングを抜いて、ロービングのできあがり。ちょっと感動

まずはボトムだけクロスを巻いた状態。マスキングを丁寧にやるほど、カットラップのアウトラインがきれいに仕上がる

かくして、悪戦苦闘しながらも初マイシェイプが完成。色は娘が好きな「みずいろ」。本当は黒を少量混ぜてスモーキーなみずいろをイメージしていたんだけど、想像以上に色が薄まり黒の存在感はまるでなし(笑)。

「色はオーダー通りにいかない(特にインポートブランドは)」という話をよく耳にするけれど、自分でやるとよくわかる。色をつくっても樹脂で薄まり、塗ってさらに薄くなり、どんどん雰囲気が変わっていく。なので皆さん、ボードをオーダーするときは、色についてはあまり執着せず、ざっくりで。

マイシェイプ1号。7’3″×22″×3″。数字の通りかなりのボリューム感。すでに5ラウンドほど試乗してみての感想は、よくばってノーズエリアを厚くしすぎたことと、デッキを全面6×6ozの2層としたことで、フレックスを感じないこと。ただ、動かそうとせずロングボード感覚で乗れば気持ちよく滑走します。仕事柄それなりのボードを触ってきて、乗ってきて、プロとの違いがわかるか? と問われれば、正直わかります。それでも溺愛。だって自分でつくったんだもの。掛けがえのない宝物です

そして見た目は上々だけど、プロフェッショナルなボードに触れてきた経験から、至らぬ部分があることも自覚している。実際に乗ってニヤニヤしながらも、「次はノーズとテールをもうすこし薄く」とか「デッキのクロスは1枚をセンター~テールだけにするか、4ozに」とか、早くも次のことを考えている自分が(汗)。

初心にかえれたことで、サーフィン熱がぐっと増した気がする。すべてマイシェイプボード1号のおかげ。ありがとう、まずはキミと、キミ以上に未熟な僕とで、もっともっといろんな波を、たらふく楽しまないとね。

【工程編】はこちらへ

(Blue.92号「THE WORKSHP」より抜粋)

photo◎Junji Kumano, Blue.
text◎Yuichi Toida(Blue.)
special thanks◎Shoji Kawai (Smooth Body)

BLUE. 103

2024年9月10日発売

湘南 前進するサーフシティ

2024年9月10日発売

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スタッフ募集のお知らせ。Blue.より

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