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いま多岐にわたるオルタナティブなボードデザインのなかで、最近再び密かに注目を浴びているのがハルだろう。新しいハル・シェイパーが何人もシーンに出てくるなか、マニアたちはジェイコブ・エルスの名を口にする。スノーボードで磨いた独自の感覚をハルとフィンレスのサーフィンに置き換え、新たな解釈でデザインを探求。個性的なカラーワークも秀逸だ。
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出身は北カリフォルニアの山あいの丘陵地帯。幼少期にハワイのオアフ島に引っ越すと、海とワイルドに戯れる日々をおくった。再び北カリフォルニアに戻り、高校時代はスノーボード・チームに入り雪山を満喫。サンタバーバラの大学に進学すると本格的にサーフィンにどっぷりとハマった。卒業後は再び雪山へ……。海と山で一定期間を交互に過ごし、それぞれ波と雪を滑ることに真剣に打ち込んだバックグラウンドが、ジェイコブのいまのサーフボード作りに大きな影響を与えている。
「2012~15年のあいだ、大きなセイルボートにサーフボードを積み込んで何人かの仲間たちとアメリカからオーストラリアに航海したんだ。もちろん航海中、マーシャル諸島など波のあるところに寄港してはサーフィンしまくった。オーストラリアに着いてから同行していた妻の懐妊を知り、私たちはカリフォルニアに戻ることに。そのとき、シェイピングを自分の生業にしようと決めたんだ。独自のシェイプ、独自のデザインや見た目を確立するのに時間をかけ、ここ2、3年、やっとスタイルや方向性が明確になってきた」
ブランド名は「ジャイブ」。何かと何かがコネクトすることを表現する言葉として選んだという。たとえば波とボードとか……。
初めてのシェイピングは20歳のころ。2本目からは自分でグラッシングもするようになった。すべてが独学。友だちにボードを作る典型的なバックヤードシェイパーだった。ジャイブはこのころから使っていた屋号だ。わからないことはオンラインで調べたり、他のシェイパーにメールで聞いたり。その過程で多くの気づきがあった。サンタバーバラにいた大学時代にディスプレイスメント・ハルでのサーフィンを見てから、そのスタイルに魅了され、自分がしたいサーフィンがはっきりとわかったという。以来、彼はずっとハルでサーフィンしてきた。
「初めてハルでサーフィンしているのを見たとき、どのように波にボードをセットしてるかがわかった。特殊な波で機能するようにデザインされていることも知り、ますます惹かれていった。いま私が削るプライベート・レーベルのボードのほとんどが、コンベックスボトムを擁するデザインのフィンレスかハルなんだ。スノーボードのフィーリングは、フィンレスもしくはハルでのサーフィンに置き換えられると感じている。多くのスノーボーダーがハル・サーファーになれる。スノーボーダーはエッジを意識する。エッジからエッジへの加重の仕方を知っている。これはレールをセンシティブに使うハルの乗りかたに通じるんだ。テールでコントロールするサーフィンとまったく別物だね」
リドルやアンドリーニの愛好家たちが集うロードアイランドのハル・コミュニティでもジャイブとジェイコブのことは話題になったいた。どうやらハル・マニアのあいだではすでに知られた存在のようだ。しかしジェイコブは、ラブレースはおろかリドルのハルにも一度も乗ったことがないという。あくまでも自分のデザインを徹底的に乗り込み、試行錯誤を繰り返しリファインしていく。それが彼の貫くスタイルのようだ。
影響を受け尊敬しているシェイパーにラブレースの名を挙げるが、いわゆる師匠と呼べるシェイパーはいない。シェイピングについて深く学びたくなったときに彼が改めて見直したのが、ジョージ・グリーノーやウェイン・リンチといった先人たちのサーフィンとボードデザインだった。
「いいなぁ、あんなふうにサーフィンしたい、と思った。彼らのフィーリングを理解できた。私が感じたいフィーリングだったから」
グリーノーがサンタバーバラ出身ということもあるが、この界隈は彼らの影響力が強い土地。ジェイコブもまた大いに感化されているひとりだ。
師匠がいない彼にとっては、「トリムクラフト」での経験も少なからずいい影響を及ぼしている。経験豊かな年長シェイパーが確立したモデルをシェイプする貴重な機会から学べるものは多いはず。
「良質なデザインを削るとすごく気分がいい。そのデザインが理にかなっていることを感じるし、ハンドシェイプすることでボードデザインに繋がれる。それによって私自身のシェイピングがさらによくなる気がするんだ」
トリムクラフトでの経験はある種のレッスンのようなもの。シェイピングやデザインの糧になることは間違いないだろう。
もうひとつ、ボードデザイン以外に、ひと目見ただけでジャイブだとわかる特別な要素がある。カラーワークだ。ジェイコブは、フォームに直接色づけする手法とテープオフを組み合わせ、マルチカラーのアブストラクトをパターンとして表現。このオリジナルのメソッドにより、唯一無二のボードの顔を創造する。試行錯誤の結果、自然な流れで編み出したというが、これも数年かけて確立したブランディングのひとつである。
「カラーは事前に考えていることもあるけど、たいていはフォームの前に立ったときのフィーリングで決める。カスタムボードならカスタマーの指示する色やリクエストを聞くけど、それでもまだ表現の余地は残されている」
カラーワークをするとき、ジェイコブの顔はシェイパーからアーティストに変わる。テープオフしたあとのパキッとした線が気持ちいい。これをクリアレジンで巻くと、より色鮮やかになる。
ジェイコブの信条は「サーファーのためにシェイパーは最善を尽くす」というもの。ボードを作ったカスタマーに定期的に電話をし、ボードの調子を尋ねてはフィードバックを求め続ける。
「みんなからフィードバックをもらいメモをとる。ボードを調整するため、継続的に解決方法を見つけるために。そう、まさに継続的な進化のために……」
(Blue.85「磨き続ける独創の美学」より抜粋)
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photo & text◎Takashi Tomita
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